性暴力被害を公表したジャーナリスト伊藤詩織さん(32)が、被害はうそであるかのようなイラストをツイッターに投稿されたとして、漫画家らに損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は漫画家に88万円の支払いを命じた。

 注目したいのは、投稿をリツイート(転載)した男性2人にも、それぞれ11万円の支払いを命じた点だ。

 漫画家は伊藤さんを思わせる女性のイラストに「枕営業大失敗!」の言葉を付けて投稿した。「枕営業」は一般的に、性的行為によって仕事を得ようとすることを指す。

 性被害を告発した著書を手にする伊藤さん似の女性に「そうだ デッチあげよう!」と添えた投稿もあった。

 裁判長は「社会通念上、許容される限度を超えた侮辱行為」だと認定した。

 性被害が仕事をもらうための打算だと印象づけたり、告発が虚偽だと決めつけたりする悪質な投稿が、許されないとする判断は妥当である。その責任は厳しく問われるべきだ。

 判決はこれに加えて、リツイートにも「自身の発言・意見と言え、責任を負うべきだ」と指摘した。

 リツイートした側は「他人の意見を紹介しただけ」と主張しており、当事者意識が薄かった。投稿者だけでなく、拡散する行為の責任にも踏み込む判決は、インターネット上のデマや誹謗(ひぼう)中傷に歯止めをかける上で意義がある。

 被害者が声を上げづらい性犯罪を告発し、女性たちの「#MeToo」運動にもつながった伊藤さんの訴えが、司法を動かしたと言える。

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 リツイートを巡っては、橋下徹元大阪府知事がジャーナリストに慰謝料を求めた訴訟で、元知事側の主張が認められた経緯もある。

 高裁判決は、社会的評価を低下させる投稿のリツイートが「経緯、意図、目的を問わず不法行為責任を負う」とした。

 リツイートは、ツイッターでアイコンをクリックするだけ。似た機能で、ハートマークを押して賛意を表す「いいね」も、名誉毀損(きそん)に当たるとの訴訟も起きている。

 利用者には手軽な意見表明の機能でも、誹謗される側には悪意の増幅装置となりかねない。ネット事業者は、デマや中傷の安易な拡散を防ぐルールを作る必要がある。

 リツイートや「いいね」する際に、悪質な投稿なら法的責任が問われる可能性があると警告し、立ち止まってもらう機能も必要ではないか。

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 ツイッターで漫画家のアカウントは停止されたが、拡散された投稿は今も残る。健全な批判や論評をする表現の自由は大切だが、デマや中傷が半永久的に消えず当事者を苦しめるネットの言論状況は、看過できない。

 伊藤さんは「一人一人の方に責任と認識を持ってもらいたい」と安易なリツイートに警鐘を鳴らしている。

 「すごく簡単にできる行為かもしれないけど、ポスターを貼るよりメガホンで叫ぶより強烈で、回収できない」。誹謗の刃(やいば)に傷つきながら訴える言葉が、重く響く。