沖縄本島北部唯一の放射線治療施設が導入する
高精度治療装置「ノバリスTx」
がん治療の3本柱と呼ばれる、手術、化学療法、そして放射線療法。昨年1月、金武町の米軍ギンバル訓練場跡地に誕生したKIN放射線治療・健診クリニック(医療法人社団・菱秀会、高江洲義滋院長)は、北部地域初の放射線療法を実施する医療施設として、がんと闘う地元の患者をサポートしている。同院が導入している高精度放射線治療装置「ノバリスTx」の特長と、地域で果たす医療的役割を聞いた。
<企画・制作 沖縄タイムス社広告局>
がん形状に合わせて精密照射できる
北部地域初の放射線治療施設であるKIN放射線治療・健診クリニックでは、昨年7月に県内唯一の「ノバリスTx」という高精度放射線治療装置を導入し、がん治療に当たっている。そのノバリスTxについて、医療技術部長の知花義政さんに話を聞いた。
「最大の特長は、がんを取り巻く正常細胞へのダメージを最小限にとどめるピンポイント照射の精度にある」。放射線量に強弱の変化をつける強度変調放射線治療(IMRT)に優れているため前立腺がんの治療に有効とされる。また高精度、高速で照射位置決定を処理できるため、呼吸のたびに位置が動く肺などの臓器の腫瘍部位を正確に捉えることができ、従来であれば1時間程度かかっていた治療時間を約15分に短縮できるのがメリットだ。
360度、分割照射により、1回あたり少ない線量で複雑な病変にも照射が可能で、周辺組織へのダメージを軽減。ガンマナイフと同様、脳腫瘍の定位放射線治療にも優れている。ガンマナイフのように頭皮に局所麻酔をかけて頭蓋骨にピンを留めることはなく、マスクで頭部を固定するだけなので、患者の身体的負担も軽減できる。また乳がんなどあらゆるがんに対応できるのも特長だ。
患者の時間的・肉体的な負担を軽減
例えば沖縄県でも増えている前立腺がんの場合。患部周辺には直腸などの臓器や繊細な神経が存在しており、手術後に尿漏れなどの後遺症となるケースがある。IMRTであるノバリスTxなら「周辺組織へのリスクを最小限にとどめながら、治療後のQOL(生活の質)低下を防ぐことができる」という。
治療にかかる時間と距離の負担軽減も大きい。標準的な放射線治療では、乳がんの手術後なら5週間(週5日計25回)、前立腺がんなら7週間(同35回)の照射が行われる。これまで放射線治療が必要な北部在住の患者は、中南部の医療施設まで毎回通院せざるを得なかったが「近隣で治療が受けられ、時間的、肉体的にも楽になった」と話しているという。痛みを和らげる緩和照射も行っている。
仕事の昼休みを利用しての治療や、日帰りで離島からフェリーで通院する患者もいるという。「近くに専門施設ができて、本当に助かったという声をもらっている」と語る。最先端治療機器の導入で、地域医療の格差を埋める取り組みが始まっている。
KIN放射線治療・健診クリニック 高江洲 義滋院長
地元の健診率アップ目指す/県内初の細胞保存室設置へ
Q 開院から1年が過ぎ、手応えはいかがですか?
A 北部地域唯一の放射線治療施設(保険適応)として、地元でのがん治療を望む患者さんが増えています。近隣の医療施設からの紹介で、金武町から名護市にかけてのエリアから通院される患者さんが多いですね。がん治療については最新医療の提供を心がけ、東京大学医学部附属病院の医局と琉球大学医学部附属病院放射線科の医師の治療計画に基づくノバリスによる放射線治療を中心に、独自の取り組みとして高濃度ビタミンC点滴なども取り入れています。がん細胞はブドウ糖をエネルギー源とします。ブドウ糖と構造が似ているビタミンCの性質を利用し、食事から摂る糖質を制限したうえで高濃度ビタミンC点滴を行っています。がん細胞がビタミンCを取り込んだ結果、がん細胞にダメージを与えるという仕組みです。当院では希望がある場合、この点滴療法を行っています。
Q がん検診にも力を注いでいるそうですね。
A がんは早期発見・早期治療が大切です。金武町の特定健診受診率は40%(2015年度)で県内22位(県平均38.7%)。2年連続で40%です。まずは地元である金武町のがん検診受診率の更なる向上を目指します。当クリニックでがん検診を受けた結果、早期のがんが見つかり、現在治療中の患者さんもいます。今まで金武町、宜野座村、恩納村にはなかった協会けんぽ契約医療機関にも4月から選定されましたので、受診者が増えると期待しています。がん検診から最先端治療まで一貫して地元で行える施設であること、それが私たちの目指すものです。
Q ドックは金武町のふるさと納税の返礼品にも活用されているそうですね。
A 寄付額8万5千円以上で人間ドック受診コースまたは脳ドック受診コース、寄付額14万円以上で人間ドック+脳MRI受診コースが受けられます。昨年10月から実施しており、すでに7人の申し込みがあり、そのうち2人は県外からでした。当院の最先端医療技術を活用し、メディカルツーリズムの分野でも尽力したいと思っています。
Q 再生医療への取り組みも視野にあるそうですね。
A がんなどの疾患や手術などでダメージを受けた部位の再生、脳梗塞やアルツハイマー治療などの分野においても、再生医療は最も注目されています。そこで4月に県内初となる細胞保存室が誕生します。これは将来の免疫治療に備えて、自分の健康な細胞を保存しておくことができる施設です。将来的には幹細胞培養などの分野にも取り組みたいと考えております。