連載「働く」を考える・特別編
連載「『働く』を考える」の第1部「労働者のすがた」の取材では、「問題が起きて初めて労働に関する法律を勉強した。事前に知っておくべきだった」という声が聞かれた。実際にあった労働問題やよく耳にする事例を専門家に聞き、Q&Aにまとめた。賢い労働者になるための知識を身に付けたい。(Q&A「上」はこちら)
Q 仕事が原因でけがをしたのですが、労働災害保険を申請したら解雇されないかと心配で、申請をためらっています。
A 労災申請 不利益は招かず
労働基準法第75条は、業務上けがをしたり病気になったりした場合は、会社は必要な療養をさせ、その費用を負担しなければならない-と定めています。
労働者を1人でも雇っている会社は、労災保険への加入が義務付けられています。労災保険を払っているのは会社ですが、給付を受けるのは労働者です。労災かどうか判断するのは労働基準監督署です。
労働者が労災保険の請求書を労基署か労災指定病院に提出すると、労基署が必要な調査をした上で療養補償や休業補償などの労災保険を給付します。
会社は労働者が労災申請したことで不利益になることをやってはいけません。労基法第19条は、療養で休業している期間とその後30日間は解雇できない-と定めています。ただ、仕事に復帰が見込めないような長期療養の場合、会社が日当1200日分を労働者に支払って打ち切りとなった判例はあります。
労災保険料は、会社の前年度の人件費によって決まり、業種によって料率も違います。料率は事故の有無で上下するので、料率が上がるのを気にして申請に消極的になる心理が会社に働かないとは言えません。
しかし、治療や療養の費用、その間の賃金など、何百万という莫大なお金がかかることもあります。それらを労働者や会社で負担できるでしょうか。
労働者が労災保険の請求書を出さないと労基署は動けないので、まずは意思表示をしてください。(新里隆さん 那覇労働基準監督署副署長)