沖縄タイムス社は、新年から始まる復帰50年企画「沖縄の生活史~語り、聞く復帰50年」で「聞き手」を募集します。「聞き手」が身近な人から一人の「語り手」を選び、「語り手」の個人的な生い立ちや暮らしぶりを聞き、その人の言葉で記録し、それを編集します。平和学が専門の石原昌家沖縄国際大学名誉教授と、社会学が専門の岸政彦立命館大学教授が監修します。

 監修の石原さんと岸さん寄稿

 

 沖縄タイムスの企画「沖縄の生活史~語り、聞く復帰50年」は、沖縄で生活史の聞き取りを続けてきた沖縄国際大学の石原昌家名誉教授(平和学)と立命館大学の岸政彦教授(社会学)が監修する。県民と双方向、参加型の紙面を目指し、年齢を問わず、若い世代にも広く「聞き手」への参加を呼び掛け、米軍統治や日本復帰が、個人レベルの生活にどのような影響を与えたのか、改めて見つめ直す。監修者の二人に今回の企画の意義を寄稿してもらった。

沖縄社会 深部に迫る

石原昌家さん 沖縄国際大学名誉教授

石原昌家さん 沖縄国際大学名誉教授

 「沖縄の生活史」という企画の監修を岸政彦教授と担うことになり、生活史、社会史をライフワークにしてきたものとして、聞き書きの視点を考えたい。この企画には「日本復帰」という時代が設定されているので、沖縄戦以後、「復帰」後50年の生活史を聞き出すということになる。

 米軍統治下の沖縄で、「即時無条件全面返還」を旗印にした日本復帰運動だったが、核つき返還のうえに新たに自衛隊という「軍隊」が配備されるという軍事基地の重圧がさらに加わった「復帰」であった。私は失望のあまり、船の汽笛が一斉に鳴り、5月15日を迎えたこと以外、当日の記憶がない。その後、「日本国憲法」が適用された一種の安堵(あんど)感はうまれた。

 あらゆる分野で「本土一体化」が進行しているかにみえた。だが、庶民生活の内実はどう変わったか。「核を枕」にした重圧から解き放されたかにみえた復帰後生活は、どう変化しただろう。

 「癒やしの島」ともてはやされる一方、米軍の出撃基地にされ、他国から「加害の島」とみられるなかでの暮らしが日常化してきた。復帰後の生活も自発的服従を強いられた戦前の天皇制国家同様、軍事基地の重圧に逆らうものは、迫害されている。

 抵抗力を奪われ、「経済振興」優先が支配的になり、凄惨(せいさん)な沖縄戦から学んだ危機意識の共有が希薄になってきた。それ故、自衛隊による与那国、石垣、宮古の軍事化を容認してきた。今、米軍が「台湾有事」という口実で日米が南西諸島に攻撃用軍事拠点を設置する計画が一斉に報じられた。これまでの軍事演習の次元を超え、戦場化が現実に迫ってきた。庶民に新たな重荷が加わり、本来有意義に過ごす時間をどれほど奪われてきたか、計り知れない。

 この企画が沖縄社会の深部にどこまで迫れるか、注目したい。(平和学)

 いしはら・まさいえ 1941年生まれ。那覇市出身。沖縄国際大学名誉教授。著書に「国家に捏造される沖縄戦体験-準軍属にされた0歳児・靖国神社合祀へ」「虐殺の島-皇軍と臣民の末路」「証言・沖縄戦-戦場の光景」など。

転換点の記憶 後世に

岸政彦さん 立命館大学教授

岸政彦さん 立命館大学教授

 このたび、長年にわたり沖縄社会をフィールドワークしてきた石原昌家先生と一緒に、この企画を監修することになり、沖縄で生活史の聞き取り調査を続けてきた者として、大変光栄に感じています。

 「復帰」という大きな歴史的転換点を経験された方々の生活史(個人的な生い立ちと暮らしぶりの語り)を聞き取ることの意味はどこにあるのでしょうか。それは、偉大な政治家や作家などの著名人ではなく、聞き取りをしなければ歴史の彼方(かなた)に消えてしまう個人的な記憶を後世に残す、ということにあります。

 そこには新しい歴史的発見も、新聞記事になるような大きな出来事もないかもしれません。しかし、戦後の沖縄を一生懸命に生きてきたウチナーンチュたちの個人的な声を聞き取り、記録に残すことには、きわめて大きな意義があるのです。

 そのために今回の企画では、語り手ではなく聞き手を公募します。身近な家族や親戚、近所の知り合いなどにじっくり人生の話を聞き、それを記録し、編集してひとりの「人生の作品」をつくる。私たちはそのお手伝いをします。そして、そうした身近な、ささやかな人生の語りを集めることで、「個人の側から見た沖縄戦後史」を綴(つづ)りたい。私たちはそう願っています。

 「沖縄学の父」といわれる伊波普猷(ふゆう)(1876~1947年)は、ニーチェを引きながら、「汝(なんじ)の立つ所を深く掘れ、其處処(そこ)には泉あり」と語っています。聞き手の皆さんに、その「立つ所」を深く掘っていただきたいと思います。(社会学)

 きし・まさひこ 1967年生まれ。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。専門は沖縄、生活史、社会調査方法論。著書に「同化と他者化-戦後沖縄の本土就職者たち」「街の人生」「はじめての沖縄」「マンゴーと手榴弾」など多数。

聞き取りまとめ出版へ 

 

 今回の企画では150人の「聞き手」が、150人の「語り手」の生活史を聞き取った「東京の生活史」(岸政彦編、筑摩書房)のスタイルを取り入れる。同著は今年9月に刊行され、紀伊國屋書店の「紀伊國屋じんぶん大賞2022」を受賞している。

 「沖縄の生活史」では、12月28日から来年1月20日まで、聞き手を募集する。沖縄タイムスホームページの専用フォームと、メールで受け付ける。

 応募者多数の場合、沖縄タイムス社と監修者で選考する。2月下旬に、平日と休日の計2回の研修会を開催し、「聞き手」となった人には、どちらか1回の研修会に参加してもらう。

 3月から「聞き手」が「語り手」への聞き取りを始める。「聞き手」は、身近な人から「語り手」を自ら選ぶ。初めに文字数に関係なく、聞き取った内容を提出した後、石原さんや岸さんの監修の下、1万字程度に絞り込む。「語り手」に原稿を見せ、確認する作業もある。

 原稿は、沖縄が日本に復帰してから50年になる来年5月15日に合わせ、一部を沖縄タイムスの紙面やウェブサイトに掲載する。また集まった原稿全てをまとめ、本として出版する予定。個人の貴重な体験、証言を紡ぎ、沖縄の生活史をつづる一冊を目指す。

 「聞き手」の応募は、専用フォームか、メールで、(1)名前(2)年齢(3)住所(4)メールアドレス(5)電話番号(6)略歴(7)身近な「語り手」をイメージした上で、「誰の生活史を聞くのか」を具体的に書き込み、送信する。

 応募専用フォームは、こちらのURLから。https://forms.gle/KhxKYiAM8CDDvD3R6

 メールではアドレス life@okinawatimes.co.jp へ。