「父ちゃんは写真家」という変わったタイトルの写真集が刊行された。さて、父ちゃんとは誰だろう?
父ちゃんとは、平敷兼七(1948~2009年)。昨年、NHKの日曜美術館でも取り上げられるなど、再評価の機運が高まっている沖縄を代表する写真家である。
書名からもうかがえるように、この写真集は平敷の子どもたちの熱意と、その思いに共感した人々が生み出した類い稀(まれ)なる1冊だ。
表紙カバーには平敷愛用のカメラバックを背景に手書きの文字で「父ちゃんは写真家」とある。文字を書いたのは平敷の四女だ。カバーを取ると使っていたカメラや帽子、眼鏡などが印刷されている。愛用の品を撮影したのは次女だ。そして、裏表紙には平敷が撮影した家族の写真。
デザインしたのは写真家石川真生だ。石川は「私はカメラや帽子を平敷さんの鞄(かばん)で包んだわけ。カバーの裏は家族の写真。平敷さんと家族は仲がよかったから。家族が平敷さんの作品を包んでいますっていう配慮。『父ちゃんは写真家』というストレートなタイトルは家族の愛情なんだよ」と語る。装丁は石川の平敷へのトリビュートだ。
編集を担当したのは、批評家仲里効だ。平敷は大量のプリントを遺した。文字通り山のように写真を積んでは崩す作業を繰り返し、仲里は写真集を編んでいった。「涯ての島」の章には仲里の故郷であり、平敷の写真家としての始まりの場である大東島の写真が多く収められている。
沖縄が島(離島)であること、その縮図が大東島であること、縮図の縮図が島に借金と引き換えに集められた女たちであること。東の涯ての島で平敷の心に映った風景が、彼の目を差別され、忘れられていくものへと向けさせたのではないか。その目は優しさだけではなく、そうした状況を生み出すことへの厳しさも備えていただろう。
平敷さんは泡盛が好きだった。泡盛は何十年もかけて、丁寧に仕継ぎをされて芳醇(ほうじゅん)な古酒になっていく。写真集をめくりながら、写真も同じだなと思う。(タイラジュン・写真家)