[想い風]
昨年末に帰省した。世界で猛威を振るう新型コロナウイルスのオミクロン株を絶対に国内に入れまいとの日本政府の号令の下、海外から帰国する日本国籍者は、出入国時の検査の陰性に加え、入国後、3~10日間は検疫所が指定する宿泊施設に隔離された。
隔離中は1日2回の健康調査に、居場所を確認するビデオ通話やアプリに1日に数度応答し、3日目、6日目、10日目の検査で陰性を確認後に解放された。
日本政府は、在日米軍に対しても整合的な措置を講じていると説明していたが、昨年末に起きたキャンプ・ハンセンでの大規模クラスターで、米軍が検査なしで自由に出入国していたことが発覚した。
在沖米軍の感染拡大は、沖縄では大きく報じられていたが、東京の主要テレビ局では、マクドナルドのLサイズポテト販売中止というニュースが大きかった。
しかし、岩国基地(山口県)やキャンプ富士(静岡県御殿場市)、佐世保基地(長崎県佐世保市)、横須賀基地(神奈川県横須賀市)などで感染が拡大すると風向きが変わり、朝のワイドショーも連日詳報するようになった。
そうした中、静岡県と御殿場市は昨年12月31日、米海兵隊基地キャンプ富士で10人の感染者が出たことを受け、同基地司令官に外出禁止などを書簡で要請した。
年が明けた4日、同基地は外泊やバーやクラブ、飲食店の店内利用禁止令を発出した。これは基地外への外出を規定するリバティー制度を利用したものだ。
一方、キャンプ富士の感染者数をはるかに上回る在沖米軍基地が講じた措置は7日時点で、午後9時から午前5時までのバーやクラブ、飲食店の店内利用を禁じる甘いものだった。この差について米国防総省に電話取材すると、現地の事情に詳しい現地司令官の判断によるものとの答えが返ってきた。
日米の合意で10日から24日まで、全ての米軍施設を対象とする外出制限が発令されたが、「必要不可欠な活動」は認められており、基地内外の移動が完全に制限されるわけではない。
玉城デニー知事は昨年12月21日、在沖米軍トップのジェームズ・ビアマン四軍調整官に電話で米国からの軍人、軍属の移動停止や基地外への外出禁止などを求めた。ビアマン氏との面談は未だに実現していない。
国防総省が言うように、現地司令官に現地の事情を考慮した裁量権があるならば、例えばハンセンでのクラスター発生直後、基地外居住者や日本人従業員をオンライン勤務などに移行し、短期間、基地内外の人の往来を完全に停止して基地外への感染を抑制することもできたのではないか。
米軍は沖縄の「良き隣人」を強調する。それならば、沖縄に「危機」が訪れた時こそ、同じテーブルに着き、どう問題に対処するかを話し合うべきだろう。在沖米軍は、米国内で広がったウイルスを沖縄に持ち込み、県民が地道な努力で取り戻した平常を再び奪った。ビアマン氏には説明責任がある。(平安名純代・米国特約記者)