[一票の先に 名護市民の選択](上)

新基地建設が進む大浦湾では大型船が停泊し、土砂を台船に移し替える作業が見られた=12日、名護市

 「子を持つ立場からすると辺野古に基地はないにこしたことはない。でも25年間も選挙のたびに問われ、今更止められると言われても…」

 沖縄県の名護市内に住み、子ども4人を育てる40代男性は戸惑いながら話を続けた。「こんなことを言えるのも西海岸側に住んでいるからかもしれない。基地が目の前にできればすごく不安に感じるはず」。

 名護市長選で立候補を表明する市議で新人の岸本洋平さん(49)は、美謝川の切り替えに関連し、新たに水路を造る場所に市有地があることを念頭に「市長権限を最大限行使し基地建設を止める」と主張する。

 男性は「少し前は幾つも権限があると言われていたがどれも結局駄目。県知事でも止められていない。本当に市長が止められるのか」と実効性を疑問視する。男性のように心情的には基地に反対しながらも、建設を強行してきた国に対し、諦めが先に立つ市民は少なくない。4年前の選挙は「(どのみち建設が進むのなら)市にとって誰が当選すればメリットが大きいのか」を優先したという。

 一方、現職の渡具知武豊さん(60)はそうした市民心情に配慮しながら、前回選挙を戦った。賛否を明確にせず「見守る」という姿勢がそれだ。前回は「辺野古の『へ』も言わない」という作戦を応援弁士にも徹底させ、子育て支援政策を強調することで無党派層の獲得に成功した。

 「もちろん市民は(渡具知氏が容認か反対かは)分かっている。“曖昧”は戦略だから」。自民系候補をこれまで応援してきた建設関係者は、聞くまでもないことだと言い放った。渡具知さんには市議時代に容認を表明し、市長就任後は基地建設の見返りである巨額の「米軍再編交付金」を受け取ってきた経緯がある。

 辺野古区の60代男性は渡具知さんの手腕を評価する。「彼のおかげで再編交付金を受け取ることができ、区内の施設整備が進んだ。振興が大事だ」。

 両者の主張のはざまで揺れる住民はまだいる。基地建設現場に近い久志区に住む女性は「市長権限で止めるのは難しいだろう。それでも、米軍機が集落上空を飛ぶ状況が続くし、新基地の運用が始まれば騒音がさらにひどくなることは目に見えている」

 区の住民同士で基地の話をしなくなって久しい。友人の子どもが基地内で働く現実もある。「だからといって指をくわえて何もしないでいていいのか。基地はいらないのに、意思は示さなくていいのか」(名護市長選取材班)

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 1月23日に投開票が迫る名護市長選。立候補予定の渡具知武豊さん、岸本洋平さんの政策について市民は何を思うのか取材した。