安全保障関連法に反対する活動を展開し注目された若者グループ「シールズ」が昨年解散する中、沖縄県内で活動をする「シールズ琉球」は解散をせず、活動を継続している。東村高江周辺のヘリパッド建設や辺野古の新基地建設など沖縄を取り巻く現状を踏まえ、これまでの取り組みや今後の活動についてどう考えるか。3人のメンバーに寄稿してもらった。
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昨年の7月11日の朝。前日の参院選沖縄選挙区で政府の基地政策を厳しく批判する候補者が大差で当選した翌日、沖縄防衛局が高江のヘリパッド建設に向け、北部訓練場に資材を搬入した。シールズ琉球では、選挙前に投票に行くことを主に会員制交流サイト(SNS)上で呼びかけたりして精力的に動いていただけに、選挙だけでは何も変わらないのかという虚無感が、朝早くから私の心を襲ったのを今でも覚えている。
シールズ琉球は結成当初から独自のコールやスピーチを取り入れた街宣や、大学教授を招いてサロンと呼ばれる勉強会を行うなど精力的に活動を続けてきた。こうした取り組みの源にあったのは沖縄の民主主義は本当に県外に届いているのかという危機感からだったように思う。戦後70年というタイミングでこうした運動を起こせたことは非常に大きな意味があったと振り返ってみて感じる。
しかし、多くの賛同を得た半面、同世代の学生や若者からの反発の声も少なからずあった。「基地反対と言ってるだけでお前らにはビジョンがない」「基地で働いている人のことも考えろ」。そういった言葉は何回も言われたし、昔から親しくしていた友人ともなんとなく疎遠になったりもした。声高に自分たちの主張を掲げるのも重要であったが、イベントなどを通して、より多くの立場の人々と対話をできればより良い運動を起こせたのではないかと今になって考えている。
ところで、冒頭で参院選後の高江での出来事に触れたが、最近の沖縄を取り巻く状況はこのときよりもますます厳しくなってきているのが現状である。昨年12月の辺野古違法確認訴訟で県側敗訴が確定し、辺野古・高江での基地建設に対する抗議活動のリーダーらが長らく勾留されている現実は、沖縄を離れた今の私にとっては相当異常な光景に映る。年が明けてすぐに辺野古での海上作業が再開され、名護市安部で発生した事故から1カ月足らずでオスプレイ機の空中給油訓練も再開された。2017年も沖縄にとっては苦難が続いていくかもしれない。
こうした沖縄の状況を考えるうえで、「ポスト真実(post-truth)」と結びつけて沖縄を見ていく必要性がある。ポスト真実とは、客観的事実よりも感情的な訴えかけの方が世論形成に大きく影響する状況を示す形容詞であり、昨年の欧州連合(EU)離脱投票でのイギリスや、大統領選でのトランプ氏の躍進により広まり、英オックスフォード大出版局が16年を表す言葉として選んだものである。
この沖縄に関するポスト真実はネット上で特に多く見受けられ、先日もあるネットメディアが「沖縄デモ集団の正体は中国」という何の根拠もない情報を掲載し、物議を醸した。
また、最近では某テレビ局が「辺野古や高江で反対運動に参加している人は日当をもらっている」というデマ情報を含んだ番組を放送した。極めて看過できない。
昨年起きた機動隊員による土人発言もこうしたポスト真実や沖縄ヘイトの思考から生み出されたものだと感じる。土人発言を差別とは認められないと言い切る今の政権はまさに「post-truth politics」(ポスト真実政治)を実践していると言っても過言ではない。
県外の大学に通う私も、県外出身の友人から心ないことを実際に言われたりした。「辺野古の人も危ないことしてるから、そんなこと言われても仕方ないんじゃない」とある人に言われたときは本当に怒りを通り越して悪寒が走った。公権力側に立つ人間が差別的発言をしたことの意味を考えずに、自然に時の権力者のそばに伏してしまっている人々の想像力の欠如には心底危機感を覚える。
このように、一部の人たちの間にはポスト真実がかなり支持されてきているのと同時に、沖縄に対する見方も一義的になってきているようである。こうした現象をこれ以上加速させないために、できることはないのだろうか。
そのためにはやはり、徹底的なファクトチェック(事実確認)、そして正確な情報の提供が最も重要である。たとえば、沖縄タイムスで連載されていた「誤解だらけの沖縄基地」はネット上にまん延するうわさレベルの言説を徹底的に検証していて効果的な取り組みだと感じた。また、シールズ琉球の一部のメンバーは反うわさワークショップという試みを県内の大学で行い、基地問題に対する具体的なデータや歴史的事実といった根拠を示し、反証できるよう、議論を重ねた。こうした取り組みが今年は特に必須になってくるのではないだろうか。
今後は、沖縄に対する勉強を個人的に続けていき、身近な人たちとの勉強会などを通して沖縄と対峙(たいじ)していきたい。沖縄に生きる多くの人が、そうした地道な取り組みをいま一度行うことにより、沖縄の世論がより活発になることを強く願っている。(2017年3月15日付沖縄タイムス文化面から転載)
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