核兵器を初めて全面違法化した核兵器禁止条約の発効から1年が過ぎた。3月には締約国会議が開かれる。

 だが、唯一の戦争被爆国で、原爆の惨禍を目の当たりにした日本の姿はその中にない。条約の署名・批准はおろか、オブザーバー参加にさえ、政府は背を向けたままだ。

 被爆地広島出身の岸田文雄首相は「核軍縮はライフワーク」とし、核兵器のない世界を目指すことを公言している。理想を具体化する取り組みが求められている。

 これまでに、禁止条約に批准したのは、59カ国・地域に上る。「核なき世界」の理念を共有する国々の輪は広がっている。発効後も増え続け、昨年はフィリピンやカンボジアなどが加わった。

 注目されるのは、日本と同じ米国の「核の傘」に頼る北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツとノルウェーもオブザーバー参加を表明していることだ。ドイツは国際的な軍縮に「指導的な役割を果たしたい」と「核なきドイツ」を目指す。いずれも、同盟の信頼を損ねずに、参加は可能との立場だ。

 6年前、条約交渉開始を決める決議の採択で、米国の働き掛けもあり、日本は反対した。被爆地から強い反発を招いただけではなく、国際社会の信用も傷ついた。

 核兵器の非人間性を世界に告発し続け、昨年96歳で亡くなった坪井直さんは「険しい道は続くかもしれないが、諦めずに進みたい」と語っていた。その姿が忘れられない。

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 核兵器廃絶への道のりが極めて厳しいのは事実だ。米英仏ロ中の五大保有国は条約への参加を拒否している。インド、パキスタン、北朝鮮なども参加していない。

 禁止条約の実効性を疑問視する見方も強いが、全面違法化に向けて、国際社会を結束させた意義は小さくない。

 「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」。今月、五大保有国首脳が発表した共同声明は、核戦争の回避と軍縮を「最大の責務」とうたった。だが、米中ロ間では極超音速兵器を含む核開発競争が激化している。声明には、核戦力削減交渉が停滞し、高まる非政府組織(NGO)や非核保有国からの批判をかわす狙いもある。

 核兵器保有を5カ国に限り認める代わりに、核軍縮の交渉を義務付ける核拡散防止条約(NPT)で、目に見える軍縮を達成するためにも、核廃絶の国際的な機運を高めることは重要だ。

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 岸田首相は、施政方針演説で「勇気を持って核兵器のない世界を追求していく」と強調し、各国の政治リーダーらを集めた国際賢人会議設立をうたった。だが、それだけでは説得力に欠ける。

 一方で、被ばく者が切望する核兵器禁止条約への参加には触れなかった。これでは、首相の本気度が問われる。

 核兵器廃絶を目指すなら、まずは禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を決断すべきだ。

 それが、核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任する、被爆国の首相としての最低限の責務である。