「まじない」。その言葉だけ取ると近寄り難い異質なものに感じるが、実は私たちの生活の中に深く根付いている。誰でも一つや二つは買ったりもらったりしたことのあるはずのお守り、家にあるシーサーや石敢當、くしゃみをした後に言う「クスケー」などもまじないの一つである。本書は沖縄のまじないに特化し、著者がフィールドワークで集めた写真や証言から構成される。

 著者がまじない研究をするきっかけとなったのはフーフダであるという。フーフダとは沖縄の寺社が発行するお札(符札)で、屋敷の角に貼られている木製の札である。本書でフーフダについて割かれているのは30ページ。そんなに書くことがあるのかと驚くばかり。しかし、釘(くぎ)で打ち付ける、両面テープや接着剤で固定する、昨年のフーフダの上に今年のフーフダを重ねて貼る、別の宗派や寺院と神社のものを並べて貼るなど、本土のお札とは違う沖縄の独自の取り入れ方やバリエーションの多さを見いだしていく様は、フィールドワークならではの発見だ。各地のフーフダ探しは子守を口実に6歳の娘さんを誘うが、何度か後に「どうせフーフダ探しでしょ」と断られたという余談もおかしい。

 本書では紫微鑾駕(しびらんか)や雨乞いなど、暮らしの中にあるけれど、だんだんと意味や由来が忘れ去られ形骸化されるまじないも取り上げられる。文化を後世に伝える貴重な役割を持つとともに、暮らしやこれまで触れてきた沖縄文化を改めて見直してみるきっかけにもなるだろう。

 著者は言う。「目の前に存在していても意識しないと何も見えない」と。何気(なにげ)なく通ると見落としてしまうものが、本書を読むことでありありと見えてくるだろう。それは新しい体験であり、身近に興味深いものはたくさんあると気づくはずだ。きっと街を歩いてみたくなる。街歩きが楽しくなる。暖かくなったいまがチャンス。さぁ本書を読んで出かけよう。(桃原美緒・DEEokinawa)

◇沖縄のまじない(ボーダーインク・1836円)

【プロフィール】やまざと・じゅんいち 1951年石垣市生まれ。80年国学院大学大学院博士後期課程単位取得。93年~2017年3月、琉球大教授。同大名誉教授。「律令地方財政史の研究」「古代の琉球弧と東アジア」など著書多数