障がい者らに不妊手術を強いた旧優生保護法を巡り、国に再び賠償を命じる判決が言い渡された。「戦後最大の人権侵害」といわれる被害である。国は裁判を終わらせ、高齢者が大部分となった被害者の救済を急ぐべきだ。

 東京都内の78歳の男性が、不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして損害賠償を求めた裁判である。

 東京高裁は請求を退けた一審判決を変更し、旧法を違憲と判断して1500万円の賠償を命じた。

 先月の大阪高裁判決に続き、国への賠償命令は2件目。弁護士が「大阪高裁判決が被害救済へ風穴をあけたとすれば、それを大きく切り開いた」と語るように、救済を重視する流れが鮮明になったといえる。

 不法行為から20年がたつと損害賠償の請求権が消滅する民法の「除斥期間」適用の是非が争点だった。

 男性は児童福祉施設に入所していた14歳のころ、説明がないまま病院で手術を受けさせられた。新聞で初めて強制不妊のことを知り、約60年後の2018年、裁判を起こした。

 一審は起算点を「手術時」とし請求を退けたが、高裁は除斥期間の規定をそのまま適用することは「著しく正義・公平に反する」と断じた。 

 国策により、本人には分からない形で実施された手術が多い。差別や偏見を恐れ、家族にすら打ち明けられなかった人も少なくない。

 被害者を沈黙させてきた歴史を振り返れば、当事者に寄り添った適切な判断である。

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 除斥期間について、大阪高裁は起算点を旧法が母体保護法に改正された1996年とし、例外的に同種訴訟の提訴を知ってから6カ月間は請求権があるとの考えを示した。

 東京高裁は、被害者救済を定めた「一時金支給法」が施行された2019年4月から5年間は賠償請求できるとし、さらに救済範囲を広げた。

 声を上げづらい被害であり、情報が届きにくいなどの事情を考慮してのことだろう。

 一律320万円が支払われることになった一時金も、不妊手術を受けたとされる約2万5千人に対し、2月時点で支給が決まったのは974人にとどまっている。

 個人としての尊厳や権利を傷つけられた被害に向き合う額としては低すぎるとの指摘は当初からあった。被害救済に国が真剣に向き合っていないとの批判も根強い。

 実態を直視するのなら、国会でも支給法改正の議論を進めるべきだ。

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 東京高裁の平田豊裁判長は判決理由の説明後、原告の男性にこう語り掛けた。

 「手術により、子をもうけることのできない身体にされたが、しかし、決して人としての価値が低くなったものでも、幸福になる権利を失ったわけでもありません」

 勇気をもって立ち上がった被害者たちが、晩年は穏やかで幸せに暮らせたと言えるよう、国は被害救済の責務を果たす必要がある。

 これ以上、苦しみを長引かせてはならない。