[アクロス沖縄](166) 「Jij」代表取締役CEO 山城悠さん(27)=うるま市出身

 次世代の超高速計算機と期待される「量子コンピューター」の実用化を見据えて研究している。2018年には、文科省が実施する大学発新産業創出プログラム(START)を通じ、大手企業と協力してアプリケーションの開発などを行うベンチャー企業「Jij」の代表取締役CEOに就任。米経済誌フォーブスがアジア各国で活躍する30歳未満の起業家やリーダーらを紹介する2021年の「30UNDER 30ASIA」にも選出された。

 小学生の頃から理科が大好きで、「いつかタイムマシンを作って未来を見てみたい」というのが夢だった。高校生の時に琉球大学理学部の前野昌弘准教授の出張講義を受けたことで、物理に興味を持った。「自然の現象は直感に反することが意外と多い。それを数式で記述できる物理が面白い」と話す。

 琉大に進学後は「この宇宙は何でできているのか」という素粒子理論を学んだ。大学4年時には沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究員として、海外から集まっている科学者と共に「ダイヤモンドを使った量子デバイス」について研究。琉大卒業後は東京工業大学大学院に進学し、無数の選択肢の中から最適な組み合わせを選び出す計算に特化した「量子アニーリング」の提唱者、西森秀稔特任教授の研究室に所属している。

 物理の研究を進める中で「夢だったタイムマシンの実現は研究を重ねて無理だと感じた。それなら自分で未来をつくろうという思いになった」。

 18年11月には、東工大の先輩でもある大関真之東北大教授との出会いをきっかけに、量子アニーリングの研究プログラムに関わったメンバーと企業活動の最適化問題の解決に取り組む「Jij」を立ち上げた。インターネットやAIの技術の発展に伴い、質、量ともに膨大となった予想データや制約条件の中でベストな判断を下す「計算困難な問題」の解決に向け、企業と共同研究している。

 トヨタグループの総合商社豊田通商とは「交通信号制御の最適化」をテーマに研究。車をスムーズに走らせることができる信号機の点灯パターンを計算した。また、ある企業とは物流の配送計画で、どの経路が一番コストが安いのかという問題を解いた。そのほか、KDDIや東邦ガスなどとの研究も進め、量子技術をベースにした最適化を目指している。

 上京して今年で5年。研究を通してさまざまな刺激を受け、人や企業とのつながりを大切にしている。「常にアンテナを張り、チャレンジすることを恐れない。自分の中に何か一つ武器を持つことが必要だと思う。それが僕にとっては物理だった」。未来の世界を見据え、挑戦し続ける。(東京報道部・吉川毅)

 やましろ・ゆう 1994年生まれ、うるま市出身。具志川高校、琉球大学理学部物質地球科学科卒。東京工業大学大学院理学院物理学系西森研究室に所属。2018年11月に「Jij」を立ち上げ、代表取締役CEOに就任。趣味は「新しいプログラミング言語を学ぶこと」。