ロシアのウクライナ侵攻が激しさを増す中、日本国内では住宅向けシェルターの販売業者へ問い合わせが相次いでいる。ミサイルによる民間地の被害が伝わり、米軍や自衛隊の基地を多く抱える沖縄からの資料請求もある。販売業者は侵攻に反対しながら「身を守る準備も大切」と、行政が公共施設や住宅へのシェルター導入を支援する必要性を強調する。(社会部・銘苅一哲)
輸入住宅を販売する「アンカーハウジング」(神奈川県)は2017年から住宅の地下に設置するシェルターを販売している。経営者の吉山和實さん(61)は「シェルターは厚さ6㍉の鋼鉄製で、オーダーメードで米国内の工場で製造している」と説明。価格は4人用が1500万円からで、それより多い人数のオーダーも受けている。
17年から販売したのは15台。ウクライナ侵攻の後はすでに複数の受注があるという。吉山さんは「シェルターがこれまでよりはるかかに注目されている。ミサイルが日本に撃ち込まれたらどうなるのかと国民が危機感を感じている」と話す。
住宅の耐震リフォームや防災グッズの販売を手掛ける「シェルター」(大阪府)は62年の創業時からシェルターの販売を続ける。
社長の西本誠一郎さん(85)によると、厚さ30センチのコンクリートで造った約10平方メートルのシェルターを地下に設置する場合は、相場が800万~1千万円。4~5人が入れる鋼鉄製のシェルターを家の中に設置する場合は750万円ほどという。
放射能汚染の対策として、180万~250万円の海外製の空気清浄機も販売する。西本さんは「核攻撃があった場合、爆心地から数キロ離れていても放射能汚染が懸念される」と説明する。
■基地を抱える沖縄からも
実は同社では創業50年間で、製品は年に1~2台しか売れなかった。北朝鮮のミサイル問題を受けた17年ごろから年間20台ほどに増加。これまで売れた計130台は、ほとんどが空気清浄機で、設置型のシェルターは6台ほどという。
ウクライナ侵攻後は1日数件の問い合わせが続き、週末には北海道からショールームに足を運ぶ人もいるという。「沖縄からも3件の問い合わせがある。戦争をしたい人なんて一人もいないが、望んでいなくても戦争は起きてしまう」と、もしもの備えを説いた。
東京で建築関係の工事を請け負いながら、5年前からシェルターの販売代理店となった武島良介さん(29)は、父が伊良部島出身。「島には祖父母が暮らしている。戦争になれば、米軍などの基地を抱える沖縄が狙われるのは、ウクライナを見れば明確だ」と話す。
5年前は知人に「シェルター」の言葉を出すだけで笑われた。今はツイッターを通じて20件ほど問い合わせがあり、国民の安全への意識が変わったと実感する。「武力攻撃だけでなく地震や津波の対策でもシェルターは必要。行政はまず、学校など公共施設への設置に取り組んでほしい」と認知の高まりを望んだ。
■有害物質を除去できる換気機能
「シェルター」(大阪府)が販売する地下設置型のシェルターについて、社長の西本誠一郎さんは「広島、長崎で使用されたような核兵器の攻撃があった場合、爆心地から2キロ離れた場所であれば耐えられる」と説明する。
外部からの電気を通せるが、水はペットボトルなどを準備しておく必要がある。簡易のトイレやベッドを設置し、換気の際に有害物質を除去するフィルターを備えたモデルもあるという。
また、同社のホームページ(HP)は「核攻撃があると地下の密閉された箱で何カ月も避難する認識があるが、避難は2週間が重要」と掲載する。
爆風や熱線と同様に大きな脅威は放射線とし、その強さは時間と距離で減衰するため、2週間を外気に触れず過ごすことが重要としている。