[ウーマンズ ボイス]

 性暴力根絶を訴えるフラワーデモが東京、大阪で始まって11日で3年を迎える。毎月11日、体験や思いを語り、聞く場として沖縄を含め全国に広がった。県内に住む30代女性は性犯罪を巡る社会の変化に「被害の予防や発生後の早期介入の取り組み、法整備が進んでほしい」と希望を見いだす。相談業務を担うソーシャルワーカーとして、思春期の娘を育てる母として「今なら話せるかもしれない」と取材に応じ、過去の性被害を明かした。(学芸部・新垣綾子)

親子で学べる性教育の本「赤ちゃんはどこからくるの?」(幻冬舎)を開く女性。娘にも読ませて、性の話をタブー視しないよう心掛けている=6日、那覇市沖縄タイムス

 「コーチがいない間、みんなが真面目に練習してくれない」。女性が地域のクラブチームで主将を務めていた小学校高学年の時のことだ。当時40代の男性コーチの運転で帰宅する車中、メンバーから陰口をたたかれチームをうまくまとめられない悩みを打ち明けた。

 幼い頃から自己主張しない性格で、相談するまでかなりの勇気を要したが、コーチは親身に話を聞いてくれ、ほっとした。だが、その直後「一緒に頑張って考えていこうね」の言葉とともに突然求められたのは、頬へのキスだった。

 「何で?」。心の中にいくつもの疑問符が並んだが、2人だけの空間。「これで陰口がなくなる」と救われたような気持ちにもなり「信頼の証しなんだ」と受け止めた。

 違和感はそれが初めてではない。チームは県内では知られた強豪で、イメージトレーニングなどの名目で日常的にコーチのボディータッチがあった。「胸をポンポンされた」。同級生が口にした。

 練習を終えると、女性を含め数人の主力選手はコーチの車で家まで送ってもらうのが習慣だった。1人ずつ降りていく中、女性の順番はいつも最後。コーチの言動は次第にエスカレートし、やがて性行為にまで及ぶ。状況がのみ込めず、抵抗できないまま「愛している」と5回言わされ「あなたはみんなと違う特別な存在」とささやかれた。時に人けのない海辺を全裸で歩かされ、合宿では必ず女性だけ別の部屋に呼ばれた。後から振り返れば避妊もされていない。

 コーチは行為を終えるとしばしば、高価なケーキを買って持たせた。喜ぶ家族を目にし「私はひどいことをされているのに、何も知らずに笑っている」と苦しかった。「楽しんだお礼のつもりなのか」「私はケーキの価値しかない人間」。そうも思った。

 コーチが体調を崩したある日、「神様がいるのなら、コーチをそのまま死なせて」と強く願ったが、翌日には回復し姿を見せた。「神様はいない」と理解した。

■性暴力許さない 決意

苦しむ子へ「あなたは悪くない」

小学校高学年の頃の性被害を明かす女性。「子どもたちに向かう性暴力をなくしたい。責務のような気持ちで取材に応じた」と語った=6日、那覇市・沖縄タイムス社

 小学校高学年だった女性に、相談できる相手はいなかった。母はわが子が学校でいじめを受け悩んでいても「やられたら、やり返せ」とハッパをかけるタイプ。指導実績があり、周囲の信頼が厚かったコーチの裏の顔など、とても信じてもらえないと考えていた。「嫌」と伝えるのが苦手だった女性に、クラブを辞める選択肢もなかった。だから感情を押し殺し、時が過ぎるのをひたすら待つ。その繰り返し。

 小学校卒業でチームを離れると被害は止まった。そして中学生になり、後輩がコーチからの性的接触を親に相談したことを機に、ついにコーチの性暴力が問題化。女性も聞き取りの対象となり、初めて事情を知った母に「どうして言わなかったの」と泣かれた時には、家族を悲しませてしまったという自責の念と、母に対する冷めた思いが入り交じった。「言わなかったんじゃなくて、言えなかったんだし」

 コーチは解任され、女性の被害が一番ひどかったと知らされた。保護者から裁判で責任を追及する話も出たが、母はできるだけ当事者間で済ませたかったようで、女性への意思確認もなく慰謝料を受け取っていた。「母なりに娘に及ぼす影響を考えたのかもしれないけれど、裁判をしてほしかった。私にとっては意図しない形で始まり、終わらされた。何のケアもされず、どう向き合っていけばいいか、ずっと苦しんだ」

 あの時なぜ逃げなかったのか。もっと知識と勇気があったら、相談できる人がいたら…。被害の記憶はふとした瞬間によみがえり、不安や焦燥感で胸がざわつく。性暴力が「魂の殺人」と表現されるのは、その通りだと思う。

 それでも、消したい過去も含めて自分。「忘れようと無理にふたをせず、1度死んだ昔の自分を供養し、抱きしめて生きている感じ」。語りたい時に安心して語れる人々に出会い、冷静に考えられるようになった。

 ソーシャルワーカーとして働く今、「本当に困っている人ほど必要な情報が届いていない」と痛感する。「私一人の力は小さくても、地道な情報発信は大切。性被害体験を知ってもらうことを含め、私にも何かできるのではないか」

 思春期を迎えた娘との日常の中で、性暴力を許さない決意はさらに強まっている。小学生だった自分、そしてこの瞬間も性被害を一人抱え苦しむ子がいるのなら、何よりも先にこう伝えたい。「あなたは悪くないよ。よく我慢したね。偉かったね」。抑えていたはずの涙があふれ出た。

【主な相談先】
●沖縄県性暴力被害者ワンストップ支援センター
 #8891 または 098(975)0166
●沖縄県警
・性犯罪被害者相談
 #8103 または 098(868)0110 
・警察安全相談
 #9110 または 098(863)9110 
●法テラス沖縄 
 0570(078)368
●沖縄被害者支援ゆいセンター
 098(866)7830
●強姦救援センター・沖縄(REICO)
 098(890)6110