この歌は私のことを歌っているのではないか。そう思ってしまう歌が、誰しも一つや二つあるのではないだろうか。自らが体験したことそのものではなかったとしても、もしかしたらそういうことがあったかもしれないと思わせる歌。今の私の気持ちにぴったり合う歌。それがたくさんの人にあてはまるものであれば、その歌は人々に愛され、長く歌い継がれていく。消えずに残る歌とは、その時代の世相やそこに生きる人々の精神などを映しだすものなのである。

「琉歌にひそむ昔びとの物語」(ボーダーインク・1026円)/みやぎ・たかお 1923年佐敷町(現南城市)生まれ。ジャーナリスト、県文化協会顧問。台北師範学校卒。戦後、米国民政府情報教育部を経て、沖縄タイムス社入社。論説委員長、代表取締役専務などを歴任

 沖縄で暮らしていた昔の人々の思いを知りたいと思ったら、そこで人々に愛され歌い継がれてきた歌や物語に耳を傾けてみればよい。本書は、新聞記者として奄美諸島から沖縄本島の那覇、北部、中部、南部、周辺の島々、宮古島、石垣島、与那国島にいたるまで、各地を取材してきた著者が、その地の歌や物語を拾い集め、書きためた取材メモが基になっている。

 それに著者独自の味付けを加えることで、歌の世界を分かりやすく描いてみせている。ここで語られる物語に「私が聞いた話とは違う」と思う方もいるかもしれない。しかし良い歌とはさまざまな物語を引き寄せ、受け入れるものでもある。どれが正解なのかと堅苦しく考えずに、ただ歌の世界にひたって楽しめば良いのだ。

 昼間の道路工事の難儀を忘れようとアカバンタでモーアシビに興じる若者たち。結婚を約束したジラーがいながら、若サムライ真三郎に惹(ひ)かれて思い悩むウサ小。伊佐浜の碑文前で愛を語り合う三郎とマサコ。マシュンクとナビと、どちらが美人かと言い合って楽しむ伊江島の若者たち。さまざまな物語が歌を通して紹介される。

 歌を知らなくてもすぐに物語の世界に引き込まれるだろう。そして、若い頃の情熱的な恋や、今では変わってしまった風景が鮮やかによみがえってくるに違いない。

 この本を片手に歌が生まれた場所を訪ねてみたらどうだろうか。いつもの風景がこれまでとは違う特別なものに見えてくるだろう。(前城淳子・琉球大学准教授)