30年前の憲法記念日、言論の自由という名のドミノのピースが倒れた。朝日新聞阪神支局が銃撃され、記者2人が死傷した
▼ドミノ倒しはその後も続いているような気配がある。カタカタカタ。銃声はしないし、あの事件に比べれば一つ一つのピースは小さい。音が聞こえにくいのかもしれない
▼最近は権力の直接介入が目立つ。警察は高江ヘリパッド建設問題を取材していた記者2人を問答無用で拘束した。自民党国会議員は党本部の会合で「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなることが一番だ」と言った。朝日の次にスポンサーを撃ち、「反日朝日に金をだして反日活動をした」と責めた「赤報隊」の発想とそっくりだ
▼事件当時の記者たちはきっと怖かっただろうと想像する。それでも「萎縮しない」と踏ん張った。市民はテロに共感しないことで見えない防波堤を築いた
▼その防波堤にひびが入っているのか。権力が不都合な言論をつぶそうとし、ネット世論が後押しする。「馬鹿な沖縄県民は黙ってろ。我々は粛々と辺野古移設を進める」「朝日新聞の連中はもう一回、赤報隊に襲われてしまえ」。少し前には、匿名に隠れて岐阜県の職員が扇動していた
▼テロを許す社会では全ての言論が標的になる。立場を超え、ドミノ倒しを食い止める言葉の力が試されている。(阿部岳)