私権を制限する法の運用に当たって、行政はより慎重でなければならないと警鐘を鳴らした判決と言える。
新型コロナウイルス対応の改正特別措置法に基づき、東京都が飲食チェーンに出した営業時間の短縮命令を、東京地裁が「違法」と判断した。
特措法では、都道府県知事が時短などの要請に応じない場合、命令を出すことができる。ただし、その場合は国民の生命・健康を保護し、生活・経済の混乱を回避するため「特に必要があると認めるとき」に限定している。
判決では、命令に違反した場合には過料の罰則が科せられることから、「運用は慎重でなければならず、不利益処分を課してもやむを得ないと言える程度の個別の事情が必要」との基準を示した。
飲食チェーンが店内の感染防止策も講じていたとし、都の命令が「特に必要がある」場合には当たらないとした。
命令を出した3日後には緊急事態宣言の解除が決まっており、4日間しかない命令には合理的な説明がない-と結論付けた。個別の実情などを十分に確認しなかった行政を戒める内容だ。
一方、命令を出す都知事の判断は、専門家が必要性を認めたなどとして過失までは認めず、賠償請求を棄却。飲食店側が訴えた「営業の自由の侵害」は、特措法の目的に照らし「不合理な手段とは言えない」と退け、合憲とした。
行政には運用をいかに厳密にするかが問われる。今後は感染防止と権利保護の両立に向け、合理的な対応と丁寧な説明が求められる。
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県内でも緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の期間中、休業や時短要請に応じない事業者に命令が出た。
そのうちの1店舗を経営する事業者が、昨年6月に県が出した酒類・カラオケ提供の禁止や時短営業等の命令を「営業の自由に対する過剰な規制で違法」などとして、県に損害賠償を求めて提訴している。
クラスター(感染者集団)の発生などで、時短措置が一定の感染抑止につながった面もある。
ただ、要請に応じれば協力金の支払いはあるものの、長引くコロナ禍で、経営への打撃は深刻さを増し、休業・廃業に追い込まれた事業者も少なくない。
ほとんどの店が時短要請に応じる一方、一部従わない店に客が集中した実態もあり、不公平感も広がった。
自治体は制限と支援体制の課題に向き合うべきだ。
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時短命令を巡る司法判断は今回が初めてとなる。
今後は、自治体の時短命令の判断に影響が出ることが予想される。
業界などからは、飲食店を「感染源」とする対策に反発や、疑問視する声が根強くあった。
政府の有識者会議は、これまでの医療提供体制や行動制限などの対策を検証し、6月にも提言をまとめる。
政府も、今回の司法判断を警告として受け止め、これまでの命令や感染防止の効果がどれだけあったかを徹底検証し、実態に即したコロナ対策を打ち出すべきだ。