今は日々気軽に写真が撮れる時代だけれど、一昔前、特に沖縄では戦前の風景を写した写真はとっても貴重だ。その風景の多くは沖縄戦の被害で、さらに戦後の開発等で面影がほとんど残っていない。

琉球風画帖 夢うつつ(ボーダーインク・1944円)

 本書はそんな失われた風景へのオマージュでもある。昔の写真や絵はがきから当時に思いを馳(は)せ、その風景の中に入り込んで書かれたエッセーと水彩画集である。読んでいると現実なのかフィクションなのかわからなくなっていく不思議な感覚がある。

 街の風景は急速に変わっていく。この間まであった建物がなくなり、新しい道ができていく。数年で風景は変化していく中、本書ではまるでタイムスリップしたかのように、琉球王国時代の「長堤」を歩いたり、波上宮を眺めたりする。

 さらに戦前の那覇では崇元寺から電車に乗ったり、大門前通りを闊歩(かっぽ)し、サンピン茶とチンスコーをご馳走(ちそう)になったり、首里城、与那原、糸満、宮古まで足を伸ばす。ある時代の人には懐かしい風景に違いない。

 著者のローゼル川田は、ペンネームで、戦後生まれのウチナーンチュである。その名前のせいか「著者は女性ですか?」と聞かれたことがあるが、実は男性で、設計士でもある。本職以外に挿絵や映画・文化的活動などに広くかかわっている方で、自己流のピアノの腕前もすばらしい、実に多才な方である。

 戦後編は復興の国際通りをはじめ、桜坂やパラダイス通り、樋川のスージグヮーを歩き回る。その視点には設計士として街を見渡す視点も入っていて、都市の成り立ちにも思いが広がる。知っている場所のようで、知らない場所、知らない場所だけど知っているようなそんな錯覚に陥っていく。

 今年から著者の連載が『沖縄タイムス』文化面で始まっており、「夢うつつ」の旅はまだまだ続いている。(池宮紀子・ボーダーインク編集者)