アダルトビデオ(AV)への出演被害を救済するための法案が、衆院内閣委員会で全会一致で可決された。今国会で成立する見通しだ。

 日本にはAVを規制する法律がなかった。制作公表者の説明責任を明記し、違法行為に罰則を設けたことには一定の意義は見いだせる。

 ただ、法案でAV撮影での性交禁止が明記されなかったことには疑問が残る。被害者の人権を守るためにも拙速を避け、検討を深めるべきだ。

 法制化の背景には、成人年齢が18歳に引き下げられた民法改正がある。18、19歳は未成年が親の同意を得ずに結んだ契約を取り消せる民法の適用外となることで10代の出演被害が増えることを心配した被害者支援団体が、取消権の復活を求めていた。

 しかし復活は見送られ、代わりに法案では、出演者は年齢や性別を問わず公表後も1年間は契約を解除できるとした。制作公表者は、出演者に損害賠償を請求できないと定め、商品回収などの原状回復の義務を負うと明記。契約時に虚偽の説明や威迫行為をした場合は懲役または罰金を科すとしている。

 法案は性行為について「性交もしくは性交類似行為」などとし、AVを「性行為に係る人の姿態を撮影した映像」と定義した。性交を前提とするような文言であり、支援団体からは「根本的な被害救済にならない」との声が上がっている。

 AVでの性交を明確に禁じる国もある中、売春防止法を骨抜きにする恐れのある法整備をこのまま進めていいのか疑問だ。

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 東京の支援団体には2014年~22年5月7日時点で計634件のAV被害相談が寄せられている。相談の多くは契約を結んだ上で性交が強いられており、違法な契約を取り締まるだけでは被害は防げないという。

 10代の頃にAV出演した被害者は、親から虐待を受けて孤立し就労もままならない中、知人を介して「仕事」として出演した。撮影中は「自分が何をしているのか分からない状態」に。撮影後は眠れなくなり、うつ病になった。支援団体にたどり着いたのは数年たってからで、今もネットに自分の映像がいつ上がるか分からない不安を常に感じている。

 法案が規定する公表後1年での契約解除などでは救済が難しいケースだ。虐待や貧困、乏しい社会性を背景にした10代での被害相談は後を絶たない。

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 インターネットの普及で、一度流布した映像を完全に消去することは極めて難しい時代になった。支援団体にはネット上の被害相談も増えている。

 「心の殺人」ともいわれる性被害の深刻さを考えれば、救済はもちろん、何よりも被害を生み出さないことが重要だ。法案はそのための「使える道具」とならなければ意味がない。

 懸念が解消されないまま法制化を急げば禍根が残る。まずは民法改正で課題となった18、19歳の被害を救済する特例法を先行させるべきだ。