問題の発言が飛び出したのは、米軍基地問題について専門家の意見を聞く有識者会議の場だった。
玉城デニー知事は会議室に入り、席に着くなり、マイクに向かって「ゼレンスキーです。よろしくお願いします」とあいさつした。
有識者会議は県庁と有識者6人をオンラインで結ぶ形で開かれた。
冒頭のあいさつでウクライナ大統領の名前を持ち出して、話を切り出したのである。
あまりにも唐突な発言に、周囲にいた県庁職員も一瞬何が起こったのか分からず、戸惑いの空気が広がった。
玉城氏はその場で「冗談です」と打ち消したが、発言はネットを通して拡散した。
玉城知事は午後の記者会見で「席に着く時にゼレンスキーさんの話をしていた。他意なく『ゼレンスキーです』と言って座った。不用意な発言で、心からおわびしたい」と釈明した。
何か特別な意図があって発言したとは思えない。冗談のつもりが冗談にならず、周りを凍らせてしまったのかもしれない。
「平穏な生活を一日も早く取り戻してほしいというのが私の偽らざる正直な気持ち。ウクライナの状況を軽んじることは毛頭ない」
それにしてもなぜ、あの場面で、あのような発言が出てきたのだろうか。
ウクライナが置かれている厳しい状況を考えれば、県知事としての節度を超えた、誤解を招きかねない失言というほかない。
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ロシアによるウクライナ侵攻から24日で3カ月が経過した。
国連難民高等弁務官事務所によると、国外に避難しているウクライナ人は640万人を超える。
夫や高齢の両親を残し、幼児を連れて着の身着のまま、避難先に身を寄せる若い母親も少なくない。
平和な日常はずたずたに引き裂かれ、今なお戦闘終結の見通しが立たない。
県は3月18日、ウクライナ避難民等支援本部を設置し、支援活動に乗り出した。県営住宅の提供や就労あっせん、学校への受け入れ、心理的なケアなど支援業務はさまざまだ。
支援の輪は学校、地域、職場にも広がっている。
沖縄戦を体験し、戦後も米軍統治下にあった沖縄にとって、避難民への支援活動は、戦争について国際社会の現実について、より深く考える機会でもある。
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戦争が長期化すれば、その影響は当事国だけでなく、世界各国のさまざまな分野に及ぶ。
どのような形で戦争が終結するのか。さらに長期化したとき、ウクライナ市民の犠牲はどこまで増えるのか。
国際秩序や規範が崩れた後、どのような秩序が新たに形成されるのか。どの国がそれを主導するのか。
核大国が引き起こした軍事侵攻は、人々の平穏な日常も、国際秩序も、のみ込んでしまった。
冗談にもならない冗談を言う状況ではない。