海を彩る言葉を数多く持つのが、沖縄・奄美の自然を飾るサンゴ礁であろう。そのサンゴ礁は、一体全体、我々に何を語りかけているのだろうか。

サンゴ礁の人文地理学(古今書院・4320円)

 本書は、そんなサンゴ礁の語る言葉を生活者(島人)とりわけ漁師(海人)の語りを通して、詳細に取り上げ分析して、物語としても読み解けるだけでなく、総括的な人文地理学書として、まとめ上げた研究書でもある。

 例えて言えば、ヒシ(干瀬・礁原)とイノー(礁池)・ハマ(浜)の基本要素に、スニ(曽根)、ワチ(割)、クムイ(小堀)、チブ(壺(つぼ))などの民俗地形用語として捉え、そこで展開される漁労活動や漁場などの関係をフィールドワークでまとめたものである。

 沖縄・奄美の各地から網羅的に「サンゴ礁漁場の民俗語彙(ごい)」390語を収録し、その採譜地を付して集大成した労作である。今日すでに、伝統的な意義をもつ沖縄語・奄美語の海生活辞典の一端をなすとも言えよう。 

 同時に、サンゴ礁を構成する地形-生物-漁労の関連性が、空間的に図示され写真でも描かれ、サンゴ礁の海を知らなくても、その理解の一助になるものだ。

 それは「海に潜る」漁労だけでなく「海を歩く」「歩ける海」の世界なのだ。とくに旧暦3月3日の浜下り(サニツ)の光景のように、干上がったサンゴ礁を歩いて魚介類を採集する「海の畑」とも言われ、大切な生活空間だからだ。

 本書のもうひとつ特筆すべき内容は、すでに「描かれた自然」として、江戸期の国絵図、明治期の水路誌、南島歌謡、田中一村絵画を事例として取り上げ、そこから沖縄・奄美の自然のもつ特徴や特異性を摘出する作業を丹念に行い、サンゴ礁・植生など亜熱帯性自然の生物多様性、カラフルな色彩性を論じている点だ。

 以上のように、本書は従来の沖縄・奄美学にない、自然・人文学の包括的な内容が、美しい図版・写真で飾られ、著者の渾身(こんしん)の魂をも感じる作品集となっている。(目崎茂和・三重大学名誉教授)

 【著者プロフィール】とぐち・けん 1953年本部町生まれ。82年筑波大大学院修士課程修了。財団法人沖縄協会を経て、2011年琉球大准教授。主編著に「熱い自然」「熱い心の島」