この本の出版を多くの人びとが待ち望んでいた。沖縄戦に関する調査・研究の成果を集約し、それを体系的に編集した力作である。歴史としての沖縄戦を学び、重大な教訓としての沖縄戦を生かすための、最良のテキストが届けられた。

沖縄県史 各論編6 沖縄戦(県教育委員会・5000円)

 沖縄戦に関する本格的な調査・研究は、住民の目線で戦争実態を聞き取り、それを記録するという基礎作業からスタートした。1970年代初頭に刊行された『沖縄県史』9巻・10巻がその代表であり、それ以後、住民証言を記録する動きは県内各地に広がった。この蓄積はぼう大なものであり、世界に誇れる沖縄の営みであろう。

 本書の特徴の一つは、積み上げられたこの住民証言集を総括していることである。その結果、地域ごとの沖縄戦の諸相や多様性が要約されており、全体像をコンパクトに描き出している。

 砲弾が飛び交う場のみが沖縄戦だったのではない。この本は集団自決(強制集団死)や日本軍慰安所などの問題に止まらず、戦争マラリアやハンセン病患者、障害者、戦争孤児、戦争トラウマなどの問題にも触れている。多様な実態に目を配り、その像を描き出す、という歴史叙述に求められる姿勢が堅持されている。この点を、二つ目の特徴として挙げることができよう。

 三つ目は、日本軍や米軍の側の資料を分析したうえで、沖縄戦を語っていることだろう。元兵士や指揮官の手記・回想録に止まるのではなく、戦闘を遂行した日米両軍の軍略をめぐる実態について、文書資料を通じて検討している。なぜ、あのような犠牲が現実のものになったのか、逃げ惑う住民の側の体験と重ね合わせる形で、軍側の論理・事情を解説している。

 四つ目の特徴は、最新の成果を持つ37人の専門家・研究者を動員した叙述であるという点に尽きる。

 この本で述べられた個々のテーマは今後も深化され続けるが、沖縄戦の全体像を構築するモデルとして大きな位置を占めるにちがいない。圧巻というべき、私たちの財産である。(高良倉吉・琉球大名誉教授)

 【メモ】1994年編さん決定。沖縄戦部会設置。部会長は吉浜忍氏(沖縄国際大学教授)で執筆者は37人。発売元の詳細は県教委のウェブサイトか電話098(888)3939。