男女の記載がある名護市の投票所入場券(画像の一部を加工しています)

[あなたのナゼにココホル取材班]

 参院選公示前の6月、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの知人がこう口にした。「選挙が怖い」-。投票には本人確認が必要だが、外見が戸籍上の名前や性別と違う当事者には心理的負担となり、投票に行くことをちゅうちょする人もいる。トランスジェンダーの人への配慮はどうなっているのか。県内41市町村の選挙管理委員会に取材した。(学芸部・嘉数よしの)

 有権者に届ける「投票所入場券」で男女の記載をやめた市町村は全体の4割に当たる16市町村あった。本人確認の材料の一つにしていたが、自認と違う性別が書かれていることに苦痛を覚える当事者がいる。

■投票所入場券 16市町村は性別欄なし

 入場券に何を書くかは市町村の判断に任されており、浦添市は2004年の性同一性障害特例法施行を機に男女表記をやめた。与那原町は4月の町長選から「1」「2」で男女を示す。南風原町のように記号の有無で区別するところもある。

男女を記載しない南風原町の投票所入場券。男女の一方にだけ「・」を付け、区別している(画像の一部を加工しています)

 一方、投票者数は戸籍上の男女別で集計して、県選管や国に報告することが公職選挙法施行規則で決まっている。担当者が投票用紙を発行する機械の男女ごとのボタンを押している。

■多様な性に配慮 当事者の心理負担を減らす

 ただ、トランスジェンダーの人にとって、目の前で「男」「女」と判断されるのは大きな苦痛。宜野湾市や豊見城市、南城市、石垣市などは、男女ボタンが見えないよう囲いを作ったり、ボタンの表記を記号に変えたりして配慮する。

 那覇市は長く、入場券に性別を記載していない。男女の判断がつかない場合は、対象者が投票した後に名簿で戸籍上の性別を確認し、集計に反映させるという。担当者は「運用で工夫できる」と説明する。

 沖縄市と北谷町は、本人確認の際に名前ではなく誕生日を聞くようにしている。性自認にそぐわない名前を呼ばれることに抵抗感を持つ人もいるためで、昨年の衆院選から始めた沖縄市の担当者は「名前を申し出た人にも、誕生日を聞いて徹底している。問題はない」と話した。

投票所入場券の性別欄の有無

■本人確認で苦痛

 出生時の性別と自認する性が異なるトランスジェンダーの人は、投票の場面でも苦痛を強いられてきた。見た目と戸籍上の名前や性別が違うことで、本人確認の際にけげんな顔をされた人、投票に行くこと自体を諦めた人-。自治体は配慮を模索するが、まだ温度差もある。当事者は「安心して投票できるよう、配慮を尽くしてほしい」と訴える。


 女性として生まれ、男性として生きるトランスジェンダー(FTM)のソウタさん(39)=仮名=は、30代に入るまで「投票に行きたくても行けなかった」と話す。地元の投票所に向かうのは、顔見知りにカミングアウトするようで不安だった。「本人確認の際に女性的な名前を呼ばれるのも、とにかく嫌で恐怖。選挙よりも自分を守る方が優先」と、足が遠のいた。

 31歳で性別適合手術を受け、戸籍上の性別も変更してようやく、投票に行けるようになった。「自分と同じように投票に行けなかったり、ためらったりする当事者はたくさんいる。投票所入場券の性別欄をなくすだけでも、配慮が見えて安心できる」と実感を込める。

■見た目と名前に違い

 FTMのユウキさん(35)=仮名=も苦い記憶がある。ホルモン治療中だった20代の頃、女性的な名前と声の低さのギャップに、投票事務に従事する人から「本人ですか?」と強い口調で問われ、「すごく嫌な気分になった」。大声で名前を呼ばれるのも、その場から逃げ出したくなるほど恥ずかしかった。「本人確認は大事だと思うが、周囲にも聞こえるほどの大きな声で呼ぶのはやめてほしい」と強く望む。

女性として生まれ、男性として生きるトランスジェンダーのユウキさん(仮名)。性的少数者の生きづらさを解消してほしいと、参院選も投票する予定だ=5日、うるま市(提供、画像の一部を加工しています)

 性の多様性に関する啓発活動を続けるNPO法人レインボーハートokinawaの竹内清文理事長(45)は「性別に違和がある人は、なかなか声を上げられない。性的マイノリティーの貴重な一票を政治に反映させ、投票率を上げるためにも、行政には手を尽くしてほしい」と要望する。

 昨年3月に県が出した「性の多様性尊重宣言」は「多様な性を理由とする困難を解消するために取り組む」と明記した。竹内理事長は「何もしないままではその自治体の姿勢が問われる」と指摘した。