本書は、国頭村奥を中心に、「やんばる」の動植物と暮らしについて書かれた入門書である。

やんばる学入門(木魂社・1944円)

 盛口満氏は、「やんばる」の森は、何度通っても、初めて見る生き物に出会える森だという。一生を費やしても見尽くせない、生物多様性の宝庫。その生物相の成り立ちを、自身の長年のフィールドワークと、最新の研究成果によって解き明かしている。

 注目すべき点は、「やんばる」の森を描くに際して、沖縄島中南部や周辺の島々と比較し、さらに中南部などから出土した生物化石から、沖縄島の環境変化を読み解き、現在の「やんばる」の森の生い立ちを考察している点だ。

 「どのような地域であれ、その土地固有の自然と、その自然と深い関わりを持った人々の暮らしがあるはずだ」という本書は、その後半において、「里山」「山仕事」「祭り」「地名」「ことば」など、地域に暮らす生活者が捉える自然へと話が進んでいく。むろん「発見」前のことだが、ヤンバルクイナを食べた話もある!? 文章には衒(てら)いがなく、解明できてないことも記されている。例えば、「ギマ」の実は小さくそれほど美味(おい)しくないが、「ウシギマ」「ポーリギマ」と呼ばれる美味な木の実もあり、しかしその植物が何なのかは同定できてない、という。

 本書の大きな魅力は、盛口氏の自然への好奇心に満ちあふれた本文と今にも動きだしそうな生き物の線画に、「やんばる」出身の宮城邦昌氏の個人史ともいうべきコラムが寄り添っている点だ。それを可能にしたのは、出身地も世代も異なる著者の2人が16年前に出会い、「やんばる」を共に歩き語らい、相互に信頼しあう友情を深めてきたからにちがいない。

 いま、「やんばる」は世界自然遺産登録に向けて注目されているが、本書からは、その生物相だけでなく、自然の中で育まれた生活文化の豊かさを垣間見ることができる。本書は、2人のナチュラリストの真摯(しんし)なコラボレーションの成功例である、といえよう。(渡久地健・琉球大学准教授)

 【著者プロフィール】もりぐち・みつる 1962年千葉県生まれ。エッセイスト、イラストレーター、沖縄大教授▽みやぎ・くにまさ 1948年国頭村出身。やんばる学研究会員、沖縄学地理学会員