[土肥義則ITmedia]

 6月である。今年は雨が降る日が少なかったが、全国で2人の“愛”は降り注いでいるようだ。

 6月某日、筆者は都内にある老舗ホテルを訪れたところ、フロントの近くで「披露宴 〇〇家、〇〇家」と書かれた紙をたくさん目にした。披露宴に出席すると思われる人たちがたくさん集まっていたので、「コロナ前のようになってきたなあ」とふけっていところ、ちょっと気になるデータが飛び込んできた。

 結婚式場のクチコミサイト「ウエディングパーク」のランキング(東京)である。利用者の声によって、全国の結婚式場を格付けしているわけだが、東京の1位に「IWAI OMOTESANDO」(以下、イワイ)がランクインしているのだ(6月末現在)。

結婚式場クチコミサイト(東京都)で「イワイ」が1位(出典:ウエディングパーク)

 「ん? イワイ? 聞いたことがないなあ」と思われた人も多いかもしれないが、全く問題なし。イワイができたのは、2019年のこと。「さあ、がんばろー!」といった翌年に、新型コロナの感染が広がって、結婚式は激減。CRAZY(クレイジー、東京都渋谷区)という創業10年目の小さな会社(従業員48人)が運営していて、結婚情報誌などへの広告は出していない。歴史もなく、利用者も少なく、認知度も広がっていないのに、なぜ多くの人から支持を集めているのだろうか。

イワイの外観
挙式会場

 クチコミサイトをよーく見ると、結婚式場は都内に900カ所ほどある。ホテル椿山荘東京、パレスホテル東京、インターコンチネンタル東京など、有名なホテルが上位に並んでいる。にもかかわらず、オープンしてまだワカイ、イワイが1位になっているのには、なにか秘密があるのかもしれない。クレイジーの担当者に“数字”を確認したところ、伸びに伸びていることが分かってきたのだ。

年内の予約は残りわずか

 2022年の婚礼実施数を見ると、19年比で1.7倍に。結婚式の多くは土日祝日に開かれるわけだが、予約はどのくらい埋まっているのだろうか。「今年の予約は、完売しました。来春までの予約も埋まってきていまして、6月末現在で8割を超えました」(担当者)とのこと。

年内の予約は完売

 このような数字を目にしても、「平日は使っていないので、ガラガラでしょ」と思われたかもしれないが、月~金曜日は企業の利用が多い。「平日は企業のセミナーなどでご利用いただくことが多いですね」(担当者)という。

 ちょっと、話がそれてしまった。イワイが登場したのは3年前、施設を運営しているクレイジーが創業したのは10年前。となると、その間の7年間はどんなことをしていたのだろうか。同社は「オーダーメイドウェディング」を手掛けていて、その数は1500組を超えているという。

 一般的な結婚式は、式場を決めれば、あとは用意されたプランの中から、新郎新婦は「これとこれを取り入れて」といった感じで、話が進んでいく。一方のオーダーメイドウェディングは違う。式場を決めるところから始まって、テーブルクロスの色はどうするのか、お花はどうするのか、料理はどうするのか、演出はどうするのかなど、イチからすべて決めていかなければいけない。いわば“手づくりの結婚式”で、同社はそのサポートをしているのだ。

エントランスにポストを設置

 いや、「サポートをしている」のではなく、正確に言えば「サポートをしていた」のかもしれない。なぜそんな面倒な話をするのかというと、現在、オーダーメイドウェディングは積極的に行っておらず、依頼があればお手伝いをするといった感じだからだ。詳しいことは、のちほど紹介する。

「高砂席」がない

 さて、前置きが長くなってしまったが、イワイの話をしよう。クチコミサイトで1位ということは、その理由は現場にあるはずである。豪華シャンデリアがぶら下がっていたり、教会のバージンロードがめちゃくちゃ長かったり、キラキラした装飾がまぶしかったり。そんな姿を想像していたわけだが、違ったのである。派手な演出はしていないし、卓上のお花もないし、新郎新婦が座る高砂席もない。

 「はあ? 高砂の席がないだと? じゃあ、2人はどこに座るんだよ」と感じられたかもしれないが、ゲストの隣である。長いテーブルがあって、そこにゲストが着席する。その中に、紛れ込むような形で座っているのだ。ウェディングドレスを着ていれば「新婦はあの人ね」といった感じですぐに分かるが、問題は新郎である。地味なタキシードをまとっていれば、「むむ、どこにいるの? 新婦の隣に座っている人が……たぶん新郎だよね」といった感じで、“ウォーリーをさがせ!”状態になることも。

高砂席をなくした

 このほかにも、「ない」ものがたくさんある。結婚式の定番ともいえるケーキの入刀もなければ、大きなメロディーとともに入場するシーンもなければ、ロウソクの点灯もない。従来の結婚式とはかなり違うわけだが、なぜいまの形の運営を始めたのだろうか。同社で執行役員を務めている吉田勇佑さんに聞いたところ、「リアルの声に耳を傾けた結果、ゲスト体験をゼロベースで再構築したところ、このような形になりました」という。どういう意味か。

 
パーティー会場

 先ほど紹介したように、クレイジーはオーダーメイドウェディング事業から始めた。新郎新婦の依頼を受けて結婚式を手掛けてきたわけだが、その写真を見ると、「あれ、あれれれ」と感じたのだ。花はたくさん飾られているし、新郎新婦は高砂席に座っているし、全体的にキラキラしているし(もちろん、すべてではない)。いまやっていることと真逆のスタイルではないか。

 「時代の空気を読んで、オーダーメイドウェディングを始めたわけですが、やがて『あれ?』『うーん』と思うことが多くなってきまして。結婚式をあげないカップルが増えていく中で、何か見落としていることがあるのではないかと考えました。本音を探っていけば、その答えが見つかるのではないかということで、たくさんの声を集めることにしました」(吉田さん)

不満を解消して、新しい形に

 結果、どういった声が多かったのだろうか。「お偉いさんのスピーチが長い」「友だちをどこまで呼べばいいのか」「料理はなぜフレンチなのか」など。不満を分類すると、「不自由」(38.2%)と答えた人が最も多く、次いで「しきたり」(16.3%)、「ご祝儀」(9.4%)、「ドレス」(9.3%)と続いた。

 また、ゲストからは次のような声が聞かれた。「待ち時間が長い」「新郎新婦と話をしたいけれど、ほとんど話せない」「お酒が飲めない人は、ずっとウーロン茶」など。

 
 

 ここまで読んで、カンのスルドイ人はお分かりだろう。結婚式を開いた新郎新婦だけでなく、披露宴に参加したゲストの不満を解消するために、新しい形を進めていったのだ。例えば、新郎新婦と話ができないという声に対しては、2人がゲストを迎えて、同じテーブルに着席する。歓談の時間をなるべく長くして、できるだけ会話がはずむような演出をしたのだ。

 従来の結婚式だけでなく、自分たちがやってきたことも、ある意味“否定”する形で結婚式場を運営したところ、それがウケたようである。結果、クチコミサイトでの1位である。

 このように紹介すると「順風満帆だよなあ」と思われるかもしれないが、そうでもない。新型コロナの感染拡大によって、大きなダメージを受けた。「開業1年目から黒字を確保することができました。翌年、『さらに成長するぞー』と意気込んでいたところ、感染が広がりまして。4月、5月、6月の3カ月間、結婚式はゼロでした。ゼロが3つ続いたこともあって、社内で徹底的に議論しました」(吉田さん)という。

 

 オーダーメイドウェディングの場合、式場を所有していないので、そのぶん固定費の負担が軽くなる。一方、イワイの場合、箱を持っているので、結婚式が実施されなければ固定費の負担がのしかかってくる。コロナの夜明けが見えない状況が続いたので、社内からは「イワイを手放して、オーダーメイドウェディングに集中すべき」といった声もあったそうだが、クレイジーが選択したのは箱である。

 イワイの運営を始めたころは、オーダーメイドウェディングとイワイの両輪を回す作戦に打ってでていた。1年目はそれがうまく回っていたが、コロナによって状況は一変。さすがに二兎を追うことは難しくなったので、一兎のみ追いかけることにしたのだ。それがイワイである。

「祝い事」をお手伝い

 あと、ブライダル業界が抱える根深い問題に対して、クレイジーもなんとかしなければいけないと考えている。離職者と給与の問題である。

 「結婚式のお手伝いをしている」と聞くと、華やかな世界で働いているのねと感じられるかもしれないが、仕事の内容は緊張の連続だという。決められたことをきちんとやって「普通」、ちょっとでもミスがあればクレームを入れられる。また、土日祝日に休むことは難しく、労働時間は長くなりがち。

 また、営業利益率がヒトケタ台のところも多く、そのことによって給与がなかなか上がりにくい。結果、疲弊してしまって、辞めていくケースが少なくない。

 
 

 こうした問題に対して、クレイジーはどのように対応していくつもりなのだろうか。「まだ答えは見つかってはいません」(吉田さん)としながらも、イワイのブランドを生かして生産性を高めることができないかと考えているようだ。いまと同じようなスタイルの式場を増やしていくのかもしれないし、同じブランドでもその土地に合わせた形にしていくのかもしれない。他社とのコラボも考えられるし、ホテルと併設する姿もやっていけるのかもしれない。

 人は生活していくうえで、さまざまな「祝い事」がある。結婚だけでなく、入学、卒業、成人、就職、出世、還暦、定年など。こうした祝いに、どうやってかかわっていくことができるのか。次の一手を打つために、“祝々(しゅくしゅく)”と考えを練っているようである。

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